トルコで有名な民話に、ナスレディン=ホジャというキャラクターがいる。
ターバンを巻いて、ロバに乗った、インテリふうの好々爺(おじいさん)。
ホジャとはもともと、「先生」とか「老師」みたいな意味なのだそうだが、現在ホジャと言えば、ナスレディン=ホジャ。知恵者で皮肉屋だけど、みょうに抜けてる所も。
中世が舞台で、とんちを利かせるあたり、日本でいうところの、一休さんや彦一さん、吉四六さんみたいなポジション。
日本の図書館でさがしたら、ホジャの絵本があったが、エピソードは2つだけ。
本場では、もっとたくさんの話があるらしいのだが……
というコトでトルコに来て、ホジャ本を探しました。ホジャホジャ……
まず見つけたのが、アナトリア考古学博物館。
各国語版があるなか、日本語版をゲット。
かなりのエピソードが紹介されており、満足。
一時期、アナトリアを征服したティムールという騎馬民族の王様とのかけあいが多い。
トルコで編集してるらしく、誤字や文字が反転してる所があって、なんか同人誌ふう。
しかし、挿絵画家の名前が反転してるのは、ちょっとマズすぎるような……(苦笑)
お次は、チェズ湖へ向かう途中の休憩所で見つけた漫画版ホジャ。
考古学博物館でゲットした本と同じ話のほか、イスラム教徒ならではの宗教観が面白い。
とりあえず読むなら、コッチの方が良いかも。
タイトルロゴは、もうちょっとだけ気合いを入れよう。(笑)
んでもってコレは……どこだったか忘れた!(爆)
上と下の本をゲットする間のどこか。
細密画のホジャが、ちょっと怖いが、美術的にはピカイチ。
最後はイスタンブールの軍事博物館でゲットしたモノ。
微妙にマヌケなイラストだが、トルコで格言にもなった有名エピソードと、厳選された小話が満載で、内容は充実してます。
御存知ナイ方が多いと思うので、ホジャのエピソードをいくつか紹介。
文章は本の引用そのままではなく、若干、アレンジしてあります。
■神さまは与えたまう
子供たちが、沢山あるクルミの分けかたでモメたので、ホジャに仲裁を頼んだ。
ホジャは子供たちにたずねる。
「さて……クルミを、お前さんらに分けるとして、人間のわけかたと、神さまのわけかた、どちらがよいかね?」
子供たちはすかさず、神さまの分けかたがイイと答えた。
そこでホジャは、ある子供にはたくさん、またある子供には少し、そしてべつな子供にはまったく与えず、残った分は自分のポケットにしまってしまった。
納得できない子供たちが、どういうコトかと尋ねると、ホジャは言った。
「神さまというのは時として、たくさん与えることもあれば、少ししか与えないことも……それどころか、まったく与えて下さらないコトや、どこかへ隠してしまわれるコトもある……
コレも運命と思って、あきらめるのじゃな」
■カモ味スープ
ホジャが水辺でカモを発見。
つかまえようとしたが気づかれ、逃げられてしまった。
ホジャは苦々しく思いながらも気をとりなおし、持っていたパンを水につけて食べはじめた。
そこへ通りかかった人が、ナニをしているのかとたずねた。ホジャはいう。
「いやなに……さっきカモを捕まえそこねてしまってな。かわりに、カモのダシが効いたスープで、パンを食べている所じゃよ。お前さんもどうかね?」
■安くすませる秘訣
ホジャとその友人たちがアクシュヒルの街を歩いていると、旅の商人にでくわした。
商人は、どこよりも安く品物を売っているという。たしかに安く、モノも確かなようだ。
友人たちはみな、商人と交渉してそれを買っていたが、ホジャだけはお金をもっていなかったので何も買えなかった。
理由を知らない友人が、こんな機会はもう二度とないかもしれないのに、なぜ買わないのかとたずねると、ホジャはすましてこう応えた。
「わしは、お前さんらより買い物を安くすませる秘訣をしっておるのでな……
それは、何も買わないことじゃよ」
■奥さんは外泊中
近所の人がホジャに忠告した。
「今、あなたの奥さんがウチに来ているのですが、何でも最近は、近所のお宅をのきなみ渡り歩いてるそうじゃないですか。少しは自分の家に帰るよう、話して頂けませんか?」
それを聞いて、ホジャはちょっと意外そうに応えた。
「そうかのぅ……それが本当なら、ウチにも訪ねてくるハズなのじゃが……まぁ、そのうち来るかもしれんから、その時によく言って聞かせておくよ。アイツの顔を覚えておったらな」
■飛び方よりもまず
ホジャを乗せたロバが、何かに驚き暴走した。
ロバはそのまま崖下へ落ちてしまったが、ホジャは途中で木の枝にぶつかり落ちて、無事。
なんとか立ち上がり、崖下をのぞき込んでから、こうつぶやいた。
「ロバよ……お前さん、飛び方は知っておったようじゃが、着地のしかたは知らんかったようじゃな……まぁ、積荷の上手な飛ばし方を覚える前で助かったがね」
■子もちナベのさいご
ホジャは、ある人に借りた大きなナベを返しに行った。
中にあらかじめ、家で余っていた小さなナベを入れて。
持ち主が小さなナベを見つけ、これは何かとたずねると、ホジャは言う。
「ナベが子供を産んだのじゃよ」
トクしたと思った持ち主は、素直に喜んだ。
しばらくして、ホジャはまた同じ人に大きなナベを借りた。
……が、いつまでたっても返しにこない。
実はホジャ、お金に困っていたので、大きなナベを売ってしまったのだ。
持ち主が催促に行くと、ホジャは知らんぷりでこう応える。
「残念ながら、あのナベは死んでしまったのじゃよ」
そんなハズはないと怒る持ち主に、ホジャはたずねた。
「お前さん、ナベが子供を産むのは信じたというのに、
ナベが死んだことは信じられないのかね?」
■去り逝くモノの願い
ホジャは死の床にあった。
日ごとに衰弱し、余命いくばくもないのは明白。
かたわらで、奥さんが涙を流して悲しんでいる。
ホジャは優しい声で言う。
「わしはもう、ダメかもしれん……じゃが、そんな悲しい顔はしないでおくれ。わしを哀れと思うなら、うんとめかし込んで、最後にお前の美しい姿を見せておくれ」
奥さんは怪訝に思いましたが、聞かないワケにもいきません。
いわれた通り、バッチリお化粧をして、いちばん上等な服を着ました。
それを見て、ホジャは満足そうです。
「でも、どうして、私がめかし込む必要があるのですか?」
奥さんは思いきって聞いてみました。
「いや、なに……お前さんで効き目があるか、ちょいと不安なのじゃが……もうすぐ、死天使アズラエルがわしを迎えに来るじゃろ?その時、横に美しい女がいれば、そいつに惚れて、わしと一緒に連れて行ってくれるかもしれん。いや、ひょっとしたら、わしのコトなど、
すっかり忘れてしまうかも……」
なんというか、ホジャ非道い奴です。
ウィットに富むといえば聞こえはイイけど、やってるコトは唯我独尊。
ここらへん、優等生的でないのが逆に面白い。
ホジャは実在の人物らしいのですが、時代を経るごとに様々なエピソードが付加され、変質し、現在の物語になったようです。
まとめて読むと、性格に統一性がないのは、そこらへんに原因があるのかもしれません。
実を言うと、上記の7エピソードの中に、ワタクシが創作した話も混じってる。
旅行中の体験を元にした話なので、旅行記をよく読むとわかる……かな?(笑)
さて、どれでしょう。
こんな痛快な話なら、日本でホジャをアニメ化しないかしらん?
外国ではされてそうだけどココはひとつ、ジャパニメーション化大希望!
とりあえず、トルコのみやげモノ屋には10ドル前後で必ず置いてあったので、旅先で見かけたら即買いをオススメします。
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