![]() ──第一話──
四景
岸壁に立つ、青い着物姿の少女は、潮の香りのする海をじっと眺めていた。 ゆったりと上下する、波の水面。 結い上げた黒髪に刺したかんざしの飾りが、潮風にちりちりと音を立てる。 真那湾に面した那水港には、数多くの船が錨をおろしている。 内海をゆく船、外洋をゆく船。 大きな船、小さな舟。 四角い帆の船、三角の帆の船、四角と三角の帆を組み合わせた船。 様々な国の、様々な種類の船が、港を埋めている。 その船の群れの向こうに、 彼女が生まれ育った水京へは、船でわずか一日の距離である。 かたわらには、なぜか、ジャンヌの姿。 あいかららず、律義に黒髪を結い、かんざしを刺している。 どういう構造か知らないが、毎日結うのは大変そうだ。 少し離れた場所で、なにやら海を見ている。 大學における最初の講義をぶじ受講した二人は、午後、那水の街におりてきていた。 二人が向かったのは、那水港。 無数の土蔵が整然と立ち並ぶ、港の倉庫街。 そこに預けてある、トレスの荷物を受け取りにきたのである。 ジャンヌは昨日の約束を守り、トレスが自分の部屋に住めるよう、手続きを済ませていた。 あとは、実際に引っ越すだけである。 ではさっそくと、トレスはその日のうちに、用具室から大八車を借りて、港に預けた荷物を取りにいこうと考えていた。 もちろん、一人で行くつもりだったのだが、なぜかジャンヌも同行することになる。 身の危険を感じた、というよりも、単に那水の街を見物したかっただけの様子。 やはり、自分の足で街にでたのは、これがはじめとのことである。 「よっしゃ、これで 威勢のいい、小柄な黒い肌の人夫が、トレスの荷物を大八車に積み込んで、ロープで止めてくれた。 「ありがと、おつかれさん」 トレスは大八車からおりた人夫に、ねぎらいの言葉をかける。 「しっかし、大丈夫かよ……けっこう重いぜ」 いくつかの籠や袋に収められた荷物の山を見て、人夫がいう。 「大丈夫さ。あんたも、あたしの腕力、見てただろ」 「ま、たしかに大した力だが……ま、あんたがそういうなら、いいかっ……じゃ、支払いと行くか?」 そういうと、人夫は自分の荷物の中から何枚か書類を取り出し、それに目を通す。 本来は、倉庫の事務所でする手続きだが、たいした量の荷ではないので、略式で人夫が手続きをしてくれるようだ。 「保管料は五日間、諸経費込みで……十一 「わかった……」 トレスは財布から、銀貨と銅貨を、所定の枚数だけ取り出して、渡す。 「ほいよっ、確かに……じゃ、ここと、ここに本字のサインと、拇印をくれ」 そういって、板に留めた書類と、インクのついたペンを渡してくれる。 何枚かの書類に、「トレスティ=アフタヌーン」の本字表記「紅素茶 午後雲」を書込む。 すかさず朱肉の入った小さな壷を差し出されたので、それに右手の親指をつけて、拇印を押す。 さっき授業で習った通り、この国では、なんだかんだで本字で字を書かされることのほうが多い。 いままで、 人夫は書類を受け取ると、指ふき用の湿ったボロ布を渡してから、内容を確認する。 「トレスティ=アフタヌーン様、ね……はい、確かに……しっかし姉ちゃん、 「あ、ああ……その通りだよ」 ボロ布を返しながら、トレスはちょっと意外に思う。 人夫が、文字を読めるとは思わなかったのだ。 あまり学があるようには見えなかったが、人を外見で判断してはいけないということか。 「そうか……そいつは気合が入ってるな。俺も、いつかは大學に行くつもりだ。毎日、勉強もしてる……あんたも、がんばって卒業しろよ」 そういって、人夫はニヤリと笑う。 「ああ、がんばるよ……あんたもなっ」 トレスも笑いかえした。 最後に保管証である割符と、受領書を交換すると、人夫は鼻歌を歌いながら、去っていった。 「あなたたち、なに笑ってたの?」 人夫が見えなくなってから、ジャンヌはトレスに聞いてみる。 離れた場所にいたので、人夫とトレスの会話はよく聞こえなかった。 トレスは、大八車が引けるか、すこし力を込めて確認しながら、説明する。 その中で、人夫が文字を読めることに驚いたという話に、ジャンヌは興味をもつ。 「じゃ、トレスはあの人夫が文字を読めたのは特別だと思うの?」 「ちがうのか?……あの人は大學に入りたいから、毎日勉強してて、それで文字が読めたんだろ?」 ジャンヌは、ふっと笑う。 「そうじゃないと思うわ……だってこの国で、ふつうに育った人間なら、誰でも読み書きぐらい、できるもの……だいたい、文字が読めなくて、書類が扱えると思う?」 「そりゃそうだけど……」 理屈ではそうだが……と、いいたげなトレス。 いくら外見的には さっそく契約通り、一般常識の講義に入る。 「トレス……この国にではね、小學っていう国営の学校があって、戸籍のある子供は、誰でも無料でそこに入学できるの。それほど高度なことを教えるわけじゃないけど、必要最低限の読み書きと計算力は身につけられる。だから常識的に、この国の人間なら、誰でも読み書きができると考えて、間違いないわ」 「……そっかー……あたしがいた国だと、文字の読み書きができる奴なんて、特別な奴だったな」 「他の国では、そうみたいね……」 「……本当、大陸一の文化国家ってのは伊達じゃないな。話では、さんざ聞かされてたけど、やっと実感が湧いてきたよ」 しきりに感心しているトレス。 「……」 そこで、ジャンヌは急にうつむいてしまう。 「どしたの?」 ジャンヌは居心地の悪さに耐え切れず、ぼそりという。 「……トレス……実をいえば、さ……わたしも一般庶民と、直に接したことは、あまりないの。教育水準が高いってことは、もちろん知ってるけど、それを直に確かめたことはなかった。そういう意味では、わたしもトレスと同じなのよ」 トレスは特に、驚いたふうもなく応える。 「……だろうね。昨日、はじめて現金で買い物をしたって、言ってたぐらいだし……でもさ、これから、そーゆーのを知っていけばいいだろ?それだって、勉強なんだからさ……」 そういって、トレスは笑う。 「ええ、そうね……本当、その通りね」 つられて、ジャンヌも笑った。 ジャンヌはこの剣客志望の少女といると、なんだか心の底から笑えるような気がしていた。 表裏のない、純粋で素朴な笑い。 王宮では、かつて経験したことのない種類の笑いである。 単なる利害の一致で手を組んでいるはずの相手に、なぜこうも笑えるのか? 内心、ジャンヌは自分の笑声に、戸惑っていた。 五景
港を後にしたトレスは、ジャンヌと一緒に那水大路をゆく。 大八車は、トレス一人で引いており、ジャンヌはその脇を手ぶらで歩く。 ジャンヌは「押すの手伝おうか?」と申し出たが、トレスはこう説明して断った。 依頼主だからと、遠慮しているわけではない。 まず、ジャンヌの細腕では、さしたる助けにはならない。 それと、万一襲撃があった場合、ジャンヌが後ろで押していては、とっさにフォローできそうもない。 だから、隣を歩いてくれるほうが、安心できる。 こう説明されると、ジャンヌも引き下がらざるをえなかった。 なにやら、主人と召使ふうで、イヤなのだが…… 手持ちぶさたでしかたがないので、周囲の風景に目をやる。 広い道の両脇に、店や露天が立ち並ぶ。 右手に川。 背後は海。 前方と両側は、山に囲まれている。 海に面し、三方を山に囲まれた那水の地形は、天然の要害なのだ。 前方の山を背に、すこし高台になった場所に、目指す 紫大は、那水大路の終端に位置している。 こうして見ると、まるで那水の街そのものが、 視線を、近くに戻す。 一見すると、平凡な街並みのようだが、道ばたで雅楽が演奏されたり、露店で古書や、細密画が売られていたりするあたり、那水がただの地方都市ではないことがうかがえる。 なにせ、塀の落書の筆致にすら、どこか気品があるのだ。 この街に集積された才能は、計り知れない。 道ゆく人の顔ぶれはさまざまだが、やはり一番目立つのはジャンヌに似た、背の低い、黄色い肌の 男性の 教科書通りにいけば、次に多いのがトレスと同じ、 話には聞いていたが、これほど 中にはチンピラもいるようだが、山賊ふぜいも、それなりに努力してるものだ。 そう、ジャンヌなりに評価を修正する。 「ジャンヌ……」 紫大の正門がそろそろ見えてくるかという頃、トレスが小声で話しかけてきた。 「どうしたの?」 「……誰か、あたしたちを尾行してる」 「えっ?」 「ふり向くなっ!……そのままっ、そのまま普通に歩いて」 「……わかったわ……で、どうするの」 あわてて、声をひそめるジャンヌ。 「……あの人数を相手にするのは、ちょっときついな」 「何人ぐらい?」 「さっきまで一人だったけど、人数が増えてる……昨日の連中もいるみたいだから……ざっと五、六人ってところかな」 「昨日の仕返しね……力で劣っても、数の有利で勝利を確実にしようってわけか……連中も、まんざら馬鹿じゃないわね」 「場所を選べば、戦えないこともないが……」 「けど、町中で戦うのは得策じゃないわ……那水は 「わかった。ともかく、紫大に戻ればいいんだな……合図をしたら大八車に飛び乗ってくれ。そのまま、突っ走るから」 「わかった」 「じゃ、いくぞっ……よし、乗れっ」 トレスの合図にあわせて、ジャンヌは大八車の前部、ちょうど荷物を背にするかたちで飛び乗る。 ど、がらがらがらっ!。 ジャンヌがいいと言う前に、大八車が急激に加速した。 あわてて、荷を固定しているロープをつかみ、振り落とされないようにする。 ものすごい、振動。 うっかり喋ると、舌をかむ。 「追え!」 後方から、そんな声が聞こえた。 どうにかうしろを見ると、数人の男が必死の形相で追いかけてくるのが見える。 木剣をもった一人の男が、急速に大八車のすぐ横まで追い上げてくる。 がしっ。 ジャンヌのすぐ左脇の荷物の角に、無骨な指がかけられた。 振動のため手を離せないジャンヌには、ただ見ているしかない。 「敵よっ!」 かろうじて、警告を発する。 トレスはちらりと、うしろを見ると、取っ手を握りなおす。 一瞬、体が沈み込んだように見える。 「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」 トレスの叫び。 途端に、大八車が再度、加速する。 荷物にかけられた指が、あっけなく外れた。 力つきたのか、男は一気に減速して小さくなる。 男が意気地ないというよりも、トレスの脚力がすごいのだろう。 そのまま、校内に突入する。 他の生徒が、何事かと見守る中を、大八車は一気に駆けぬけた。 管理棟をぬけて、 學内のゴミが一手にあつまる場所であるが、回収した直後のためか、閑散としていた。 土壁に阻まれ、行き止まりになっている。 「止まるぞっ!」 トレスがそう叫ぶと同時に、急激な制動がかかる。 ジャンヌは放り出されないよう、必死でしがみつく。 敵との距離は、かなり離れていたのだが、トレスには後ろが見えないため、必要以上の速度が出ていた。 おまけに、集積場への道はゆるい下り坂になっている。 減速が間に合わない! そう悟って、ジャンヌは目を閉じた。 その数瞬前、すでに通常の停車は不可能と判断していたトレスは、ジャンヌが目を閉じるのと同時に、体を左にひねった。 どががががっ! 車輪が地面を削りながら、後部が右に滑る。 ほぼ真横にたったところで、トレスはもう一度おもいきり右足を蹴り出す。 瞬間、負荷に耐え切れず右の車輪が外れたことが感覚でわかったが、かまわず、ありったけの力を取っ手にかけて、体を左に投げ出した。 地面にぶつかる衝撃とともに、体を数回転がしてから、その勢いを利用して立ち上がる。 ジャンヌは? そう思って視線をむけた瞬間、どすんと音がして大八車が壁に激突した。 衝撃でロープがほどけ、荷物が散乱する。 右の車輪が負荷に耐え切れず外れていたが、大八車は意図したとおり、反転していた。 荷物を背にしてぶつかったため、ジャンヌも健在。 よし。 トレスはジャンヌの無事を確認すると、鋭い視線を後方に向けた。 ジャンヌが目をあけると、なぜか大八車が後ろをむいて、壁に激突している。 思ったより、衝撃は受けなかった。 崩れた荷物にめり込む形になったため、負荷が少なかったようである。 とっさに、トレスが向きを変えてくれたのかもしれない。 多謝。 とはいえ、大八車は傾き、ジャンヌはあられもない格好で荷物に埋もれている。 「ジャンヌ、無事か?」 トレスの声。 「ええ、無事よ……」 そういって、体を起こす。 泥だらけのトレスが、すこし離れた場所で、奥からら走ってくる敵に視線を向けている。 視線を外さず、トレスがいう。 「ジャンヌ……その荷物の中に、細長い、黒い籠があるはずだ。中にあたしの木剣が入ってるから、出してくれ」 「えっ?えっ?」 「早く!」 トレスに急かされて、あわてて周囲を見回すと、たしかに少し離れた場所に、黒い漆塗りの籠が落ちている。 ちょっとふらついていたが、かまず籠に飛びつく。 蓋を持ち上げてみると、中に黒ずんだ木製の剣が入っていた。 諸刃の長剣を模したそれは、木製とはいえかなり大きく、持つとずしりとした手応え。 よく使い込んであり、傷だらけで、柄がてかっている。 「?……」 そのままトレスに渡そうとして、気づく。 黒い籠の中の、木剣があった場所の下から、赤い布に包まれた棒状の物が見えている。 木剣ほど太くはないが、長さは同じくらいで、少し反っていた。 隠蔽用につめてある着替えを取り除き、棒を持ち上げてみる。 重い。 その棒は見かけによらず、木剣と同じくらいの重量があった。 「そいつじゃない、木の方だっ!」 「あっ……そだっ」 叫びで我に帰ったジャンヌは、棒をもどし、木剣に手をかける。 そしてトレスの方へ、せいいっぱいの力を込めて投げた。 「うっ……」 ジャンヌが唸る。 力およばず、木剣はトレスの手前に落下してしまった。 たが、彼女の方が身を躍らせて、空中でそれをつかむ。 「ありがとよっ!」 そういいながらトレスが体を回転させ、立ちあがった時にはすでに、木剣を中段に構えている。 ほれぼれするほど、見事な体捌き。 うっすらと汗をかき、息も多少は荒れていたが、とても、あれだけの荷物を引いて疾駆した後とは思えない動きだ。 敵もまさか、荷物を引いた小娘に引き離されるとは、思ってもみなかっただろう。 連中を、大學内に引き込めただけでも、半分は勝ったようなものだ。 さすがはトレス、剣客になろうというだけあり、半端な鍛え方ではないな。 そう、ひとしきり感心してみる。 ……だがジャンヌは、忘れたわけではない。 たしかに、彼女はこう言った…… 『そいつじゃない、木の方だ』 ジャンヌは、赤い布に包まれた反りのある棒を見る。 棒の全長のうち、四分の一ほどのところに、円盤状のふくらみ。 間違いない。 ジャンヌは確信した……この中に「木製ではない剣」が入っている、と。 がっ、じゃっりっ。 トレスは、不用意に右横から打ち込んできた男の一撃を、切っ先を後ろにして受け流す。 どっ。 そして、つんのめりながら脇を抜けた男の背に、木剣を叩きつける。 動きをとめずに木剣を構えなおし、後に続こうとする連中を牽制した。 ずざざざっ。 うす汚れた男は、息を詰まらせてへたりこむ。 さっき、もう一息で追いつかれそうになった奴だ。 ごくろうさん。 木製とはいえ、本気で打ち込めば、ただでは済まない。 かといって、下手に手加減をすれば、反撃を食らう恐れがある。 大怪我にならぬよう、かつ、しばらく動けないように打ち込むのは、なかなか難しい。 トレスはもう一度、状況を確認する。 場所はゴミ集積場。 背後は土壁。 左手に大破した大八車と、依頼人のジャンヌ。 前は広場になっており、その先はゆるい登り坂の並木道。 敵は全部で七人。 みな、何かしら棒状の武器をもっている。 右手でのびている奴が一人。 坂を抜け、広場で二人を囲んでいる奴が四人。 そのなかに、昨日のノッポとチビの 息を切らせながら、駆けよってくる奴が二人。 そのうち一人は、デブの 「へーっ、はぁーっ、ほーっ、待ちやがれだ~よっ!」 「テメェが、おせぇんだっ!」 「そんな急いで、どこ行くだよ」 「あの娘に聞けっ!」 「……論争は、簡潔になっ」 例の三人組が、例の不毛な会話をしている。 みな息を切らせ、汗だくになっていた。 鍛錬不足。 三人組以外は、どう見ても街のならず者、といった風体。 おそらく、金で雇われたのだろう。 トレスはもういちど、剣を構えなおす。 さすがに、先ほどの全力疾走がこたえている。 握力は失せているし、膝も笑いかけ。 本来なら、息を切らせてバラバラにやってくる連中を、反転して個々に撃破するつもりだったのだが、この状態で、それは無謀というものだろう。 少しでも休むため、暴漢たちが終結するのを、じっと見ているしかなかった。 しばしの対峙の後、動ける敵が六人、集結する。 当然、むこうも疲労していたが、数では有利だ。 一度にこられたら、おしまいである。 背後は壁で、左手に大八車。 ちょうど、角の隅っこのような状態になっている。 逃げることはできないが、一斉攻撃を受ける危険は少ない。 各個撃破が不可能な以上、ここでなんとかしよう。 「うう……」 隣で、のびていた男が息を吹き返した。 どすっ。 とりあえず腹を蹴って、また動けなくする。 敵は少しずつ、包囲を狭めていた。 半端な攻撃は、通用しないと思っている。 よしよし。 むこうも、こちらが疲労していることに、気づいていない。 もし、まともに戦ったら、負けないまでも、ただではすまないだろう。 と、背後でジャンヌが声を上げる。 「トレス!……単体の敵は、大したことないわっ……すぐ自警団がくるから、もうすこし持ちこたえてっ!」 んなこた、わかってる……そう返答しようとする前に、トレスは異変に気づいた。 ジャンヌの言葉に、暴漢たちが動揺したのだ。 「おい、金は払ってるんだ……たかが小娘一人、どうとでもなるだろ!」 先輩こと、ノッポの そりゃそうだ。 当のノッポ自身が、トレスを恐れるあまり、腰がひけている。 ジャンヌの言葉が、連中を釘付けにしているのだ。 計算してやったのか? ……多分、そうなんだろう。 まったく、なんて奴……ほんと、味方にして正解だな。 ジャンヌを賞賛する意味をこめて、トレスは不敵に笑った。 戦意をくじかれた暴漢たちは、なす術なく立ちつくしている。 無言の対峙。 やがて背後から、木製の槍を構えた集団が現れた。 大學の自治を守る、 「いたぞっ!学生を守れっ!」 隊長らしき生徒が号令を発すると、集団が横一列に槍を構える。 「突撃っ!」 集団が、小走りに前進を開始した。 暴漢たちは、もう 退路を断たれ、おろおろするばかり。 「うおっ、このままじゃ国の母ちゃんに、折檻されるだっ!」 「テメェの人生じゃ、どのみち母ちゃんに折檻されるんじゃねぇのか?」 「ぐぅおぉぉぉっ。いうな、いうでねぇっ!」 「だあぁっ、暴れるなっ。暴れるなら、向こうの連中とやれっ!」 「……落ち着け、落ち着くのだっ。冷静に状況を分析すれば、必ずやかつ、かつ、カツヲっ!」 ノッポ先輩が、奇声を上げる。 「まず、あんたが落ち着けって……もう、逃げようがないだろ?さっさと降参させろよっ?」 そのトレスの言葉は、果たして届いているのだろうか? 「……い、いや、違う、かつ、活路を見出せる……さ、さすれば、さ、 リーダーがこの調子では、どうしようもない。 ただ、立ちつくすしかない暴漢たち。 だがその時…… 「うぐぅわぁぁぁぁぁっ」 突如、槍を構えた自警団の列が崩れた。 何かに足を取られたようだ……ロープを張ったのか? 確かめる間もなく、どこからか声がする。 「潮時だ……撤退しろ」 低いが、よく通る男の声が、トレスの耳にまで届く。 その言葉に弾かれたように、暴漢たちは呪縛を解いた。 「こっちだ……」 男の声に導かれるように、暴漢たちは並木道の隙間……一見すると、通れそうもない場所に消えて行く。 「ま、待てっ!」 隊長の必死の叫びも、混乱する集団のなかでは無力である。 「!?……誰か……いるのか?」 暴漢たちが見えなくなる瞬間、並木道の間から剣を帯びた人影が見えた。 無駄のない、ひきしまった長身。 褐色の肌。赤毛を後ろで短く束ね、着流しに、使い込まれた木剣を腰に帯びている。 男は、視線をわずかにトレスに合わせてから、静かに去った。 「トレス……どうなってるの?」 疑問の声。 ジャンヌが、うしろに立っていた。 すこし振り返ってから、また前をむく。 背後に困惑の気配があったが、トレスは沈黙を守った。 きっと、話しても信じてはもらえないだろう。 根拠はない。 だが、確信していた。 ……奴が、真の敵。 ……奴は、強者。 ……奴は、本物。 ……奴と、本気で戦いたい。 剣士としての本能が、高らかにそれを告げている。 トレスは、あまりにも幸福だった。 六景
「しっかしま、想像以上に広い部屋だね」 トレスは呆れるの通り越して、なかば感心している。 ようやく、ジャンヌの部屋への荷物の搬入が、一段落した。 「広いだけよ」 片づけを手伝いながら、ジャンヌが笑う。 いまは青い着物ではなく、空色の浴衣に着替え、結った黒髪にに布巾を巻き前掛けをして、ばっちりお掃除スタイル。 トレスも着物と短袴をぬいで、白いシャツと茶色い短パンという、鍛錬用の姿。 愛用の木剣に寄りかかりながら、トレスは改めて部屋を見回してみる。 ここは三階建ての木造建築の屋根裏で、出窓からは那水の夜景が一望できた。 部屋の大きさは幅三十 ただし屋根裏であるため、天井高は中央部で三 一階まるごと貸し切り、といえば聞こえはいいが、お忍びとはいえ、この国の王女が使用する部屋としてふさわしいのかは、意見がわかれる所だろう。 ジャンヌいわく「王女への体裁を守りつつ、若干の愚弄と、千万の皮肉が込められた意志による選択」なのだそうだが……よくわからん。 出口は部屋の真ん中の床にあり、斜めになった梯子状の階段で昇降する。 その穴を塞ぐための扉が、水平にはめ込まれている。 トレスは部屋をぐるりと見渡し終わると、ジャンヌにいう。 「でもさ、こんだけ広いと、二人でも使い切れないよ」 ジャンヌは、せっせと小物を整理しつつ、答えた。 なんと勤勉な……本当に、王女か? 「どうせあなた、毎日、体を動かすつもりでしょ……これぐらいで丁度いいんじゃない?」 「でも、そんなことしたら、下の部屋に迷惑だよ」 「大丈夫よ……会話が漏れないよう床板を厚くして、防音を完璧にしといたから……飛んでも、跳ねても、下には響かないわっ」 「ほー、そうなんかい?」 試しに軽く、木剣を床に突いてみる。 こす、こす。 たしかに、音が吸収されて響かない。 今度は、ちょっと強めに足踏みしてみる。 どす、どす、どすっ。 やっぱり響かない。 ぎす、げす、がす、ごすっ。 容赦なく蹴ってみても、やっぱり大丈夫。 相当、床板は厚そうだ。 これなら密談しようが、剣術をやろうが、問題ない。 やはり、ただでは転ばないな。 屋根裏部屋をあてがわれても、王女特権で自分向きの部屋に改造していたか。 その気になれば、華美な装飾もできただろうに、そんなものは一片もないあたり、共感できるセンスだ。 ジャンヌはあらかじめ、自分の荷物を整理して、トレスが使う場所を確保してくれている。 そもそも、ジャンヌの私物もさして多くはないので、トレスは楽々、自分の荷物を運ぶことができた。 先ほどの騒ぎにより、トレスは若干のうち身、すり傷を負っていたが、彼女にしてみれば怪我のうちには入らない。ジャンヌに至っては、あれだけの騒ぎを体験したにもかかわらず、ほぼ無傷。 彼女が無事だったことが、トレスには何よりの誇りである。 あの後の自警団による事情聴取は、簡潔だった。 トレスとジャンヌが事件現場で学生証の木札を提示し、襲撃の顛末を説明すると、驚くほどあっさりと解放してくれる。 事情聴取にあたった自警団員によると、最近、 破損した大八車は大學の備品なので、自警団が回収してくれる。 二人が被害者であることは、自警団が証明してくれるので、この件で叱責されることはないそうだ。 トレスがのした男は、この大學の生徒ではなかったので、取り調べの後、那水の役人に引き渡すとのこと。 金で雇われたならず者らしく、たいした情報は得られなかったようだ。 結局、今日の騒動で一番被害を出したのは紫大自警団、ということになる。 あとで判明したことだが、突進する自警団たちを転倒させたのは、横の並木道から放たれた分銅つきのロープだった。 横合いから、絶妙のタイミングで放たれたため、なす術なく転倒させられたようである。 トレスにだけは、分銅を放ったのがあの男であることがわかったが、その件に関しては、一切話さなかった。 せっかく見つけた強敵を、失ってたまるものか。 本気で、そう思っていた。 自警団が去ってから、二人は散乱した荷物を集め、あたらしい大八車を借りて学生寮へ向かう。 物的な被害は、衣服に泥がついたのと、親から入學祝いにと押し付けられた硯が割れたぐらいで、トレス的に大したことはない。 荷物の大半は、今まで使っていた鍛練のための器具で、あとは 机や椅子、ベットの類は、ジャンヌが貸出用の備品を手配してくれていたので、位置を決めるだけだった。 さっき、ジャンヌが指示した場所は、部屋の隅、三角形の壁際。 左側の斜辺にジャンヌの私物と、机、椅子、ベッドが置かれている。 右側の斜辺を空けたので、そこを使え、というのだ。 もともと部屋が広いので、反対側とはいえ、かなり距離はあく……のだが、それだと部屋の七割が空いてしまう。 いわれた通り家具を移動させたが、つまり、残りの空きスペースは、トレスの鍛錬用に使え、とのことらしい。 「悪いね……ここまで気を使ってもらって」 ぽつり、とトレスは言った。 ごくごく控えめな、感謝。 だがその言葉に、ジャンヌの動きがぴたり、と止まった。 何事かと見ていると、ジャンヌはうつむいたまま、ずかずかとトレスの前までやってくる。 「?……」 トレスがなす術なく見ていると、ジャンヌはくわっと顔をあげる。 「っ!?……」 あまりの形相に、思わずトレスは後ずさった。 暴漢にすら一歩も引かなかったトレスが、後ずさった。 それほどの、形相。 ジャンヌは底冷えのする声で、いう。 「トレスあなた……わたしのこと『結構いい人』だと、思ってるでしょ……」 「えっ……えっ?」 「どう思ってるの?……返答してっ」 トレスには、ジャンヌの意図がわからなかったので、思った通りのことをいった。 「さ、最初は気の強い奴だと思ったけど……話をしてみると、案外まともかなって……」 その言葉に、ジャンヌは血走った目で吠える。 「……愚鈍な剣客馬鹿に、何がわかるっ!」 腕力ではなく気勢によって、トレスは目の前の少女に、新たな感情を抱いた。 それは、恐怖である。 恐怖にうち勝つために、トレスも吠えた。 「どういうことよっ!……ただ、聞かれたから正直に答えたのに、その言いぐさはなんだっ!。ざけんなっ……あたしに、あんたの何を理解しろってんだよっ!?」 いいながら、トレスも本気で腹が立ってくる。 そうだよ、なんであたしが、責められなきゃならないんだ。 約束通り、きっちり守ってやってるじゃないか? だが、ジャンヌの怒りの方向は、すこし違った。 「わたしは……トレスが思ってるような善人じゃないっ!」 「……はぁ?」 「わたしは……わたしは王宮じゃ、変人の狂った王女だって言われてた。……言われるだけの狂気をもってると思ってた。 わたしが本気になれば、万世に名を轟かすことができると……そう信じてたわ。王宮にいると、だれもがわたしを大切にしてくれる……でもそれは、わたしが ここにいたら、ただの狂った王女ってだけで、飼い殺しにされるのがわかったから、……だから、ここに来たのに……ここに来れば、わたしは、わたし自身の力でのし上がれると思ったのに……なのに……」 「ジャンヌ……」 トレスは、当初、感じていた怒りが引いていくのを感じている。 それは、第四王女の目に、滴るものを見たせいかもしれない。 「そんな目で、わたしを見るなっ!!」 ジャンヌは、またもや叫ぶ。 そこには、先程の迫力はない。 顔を上げて、滴がこぼれるのを、必死で耐えている。 「わた、わたしは……ヒック……わたしは将来、希代の悪女になるんだから……ヒック……歴史の講義じゃ、わたしの悪行が列挙され、その蛮行の数々に、後代の人々は眉をひそめ、わたしの時代に生まれなくてよかったって、胸をなでおろすのよ?……その、そのわたしが……ヒック……なんで、なんでこうも……ヒック……一方的に、やられっぱなしなわけ?……たかが、学生ごときに、このわたしが、やられっぱなしになるなんて、どういうこと?……ヒック……おかしい……おかしいよっ……ヒック……」 思いのたけを放出すると、ジャンヌはベットにうつぶせになり、低く、くぐもったうめき声を上げはじめた。 トレスには、どう答えていいかわからない。 下手になぐさめても、また逆ギレされるだけだ。 だが、これだけは言う。 「ジャンヌ……あんた、連中に好き放題ヤラれてるのが、気にくわなかったんだね」 その言葉に、ジャンヌはうつむいたまま返事をしなかったが、答えがないということは、それが正解ということだろう。 ジャンヌはそのまま、そっとしておくことにして、トレスは片づけを再開した。 ジャンヌは、酩酊感を覚えていた。 頭のなかがぐるぐる廻り、思考がまとまらない。 いま、わたしは何を言ったのか? 何かとてつもなく、みっともない事をいった気がする。 いや、本当は何をいったか、ハッキリ覚えていた。 なんて子供じみた、下らないことを言ってしまったのだろう? 為政者は、決して臣下に弱味を見せてはいけない。 ジャンヌはそう、信じていた。 単なる部下なら、その通りだ。 では、つい自分をさらけだしてしまうトレスとは、何者なのか? よく、わからない。 だが、一方では、こうも思っている。 あんなことを言って、トレスに、軽蔑されてしまっただろうか、と。 他人にどう思われても、構わないはずではなかったか? 自分は不完全でも、他人には完璧だと思わせなければいけないのではないか? だから、何があっても平然としたフリをしていたのではないか? 昨日…… トレスと別れて、この部屋に戻ってから、恐怖感がこみ上げて来て、一人で泣いた。 夜は、広い部屋に一人でいるのが怖くて、窓を閉め切って震えていた。 さっきの騒ぎで、大八車に乗って爆走したときも、暴漢に囲まれていたときも、ものすごく怖かった。 トレスに守ってもらうとしても、守られる者として最低限、足手まといにならぬよう、努めて恐怖感は押し殺していた。 だが、昨日今日と蓄積されていた恐怖が、叫びとなって噴出したのだろう。 そう、自己分析する。 言いたいことをいったので、すこし気持ちが楽になったが、ちょっと格好悪いな……そう思えたとき、ジャンヌはうつむいたまま、笑った。 でも恥ずかしいから、もうすこし、このままでいよう。 「……片づけはもういいでしょ。そろそろ、食事に行かない?」 ジャンヌは、がばっと起きあがり、そう提案した。 彼女が叫んでから、多少時間がたっており、トレスの片づけもほぼ終わっている。 少し目が赤かったが、知的で冷静な瞳が戻っていた。 「そりゃいいけど、愚劣な剣客馬鹿と一緒でいいのかい?」 トレスは皮肉げに言う。 まだ腹が立っていたというのもあるが、ジャンヌの場合、下手に気を使わない方がいいように思えた。 ジャンヌは不敵に笑う。 予想通り。 「ええ……いまのわたしには、その程度で十分よ……でも、トレス。わたしは愚鈍な剣客馬鹿って言ったのよ……あなたは、愚劣じゃないわ……愚劣なのは、わたしの方でしょうね……」 ジャンヌは自虐的にそういうと、下への階段へ向かって歩きはじめる。 トレスには、「愚鈍」と「愚劣」の違いがわからなかった。 あとで、辞書でも引いてみるか。 そう思いつつ、最後の荷物をとりあえずベットの上に置いて、後を追った。 七景
「そんなもの、嫉妬に決まってるでしょっ!」 学食棟の長机に座り、ジャンヌは飯粒を飛ばしながら、大声で言った。 周囲の学生たちが、一斉にこちらを見るが、彼女は気にするふうもない。 トレスはただ、なんで そう思いつつ、応じる。 「嫉妬って……なんで? 内容的にヤバいかかもしれないと、声をひそめて聞いたのだが、これではなんの意味もない。 ジャンヌは平然とみそ汁に飯をブチ込み、豪快に掻き込んでいる。 嫌な王女だ。 トレスも、ぬか漬けをフォークで突き刺した。 「支配ったって……文化的には、 「そんなもん、かね?」 そういいつつ、冷えた豆腐に 魚醤とは、この国の食べ物にかける、黒くてしょっぱい調味料だ。 名前に魚とついているが、別に生臭いわけではない。 独特の風味があるのだが、トレスの母親が作る料理は必ずこの魚醤をかけて食べていたので、慣れたもの。 ちなみに夕食の献立は決まっており、鯖の味噌煮と冷やっこ、 それ以外のものが食べたい人は、街へどうぞ、ということらしい。 食べるための道具は、箸とフォーク、あと手掴み用のフィンガーボウルが用意されていた。トレスはフォーク、ジャンヌは箸を使って食べている。 「そんなもん、よ……所詮は山賊上がりの 周囲が、ざわめく。 だがやはり、ジャンヌは無関心。 「おい……そんなこと言って……」 トレスがいさめる前に、一人の男子生徒がやってきた。 褐色の肌。 間違いなく 武器はなく、かわりに分厚い本をかかえている。 体格はそこそこだが、暴力に訴える雰囲気ではなかった。 すこし、様子をみてみるか。 トレスは学生の挙動に全神経を集中させながら、冷えた豆腐にフォークを突き立てた。 「君……公共の場であることを弁えて、発言したらどうだ?」 学生は、理性的な言葉で攻撃を始めた。 きたきた。 ジャンヌは気づかぬふうに、ぶっかけ飯を一気に流し込む。 「ぶはっ……やっぱり、冷えてない食事は美味ね……あら、当の そう言って、ちらりと学生に目をやってから、ぬか漬けを箸でつまむ。 背後で、学生がわななく気配。 それでも学生は、努めて理性的に言葉を返す。 「じ、自分の名は、 かなり、頭にきているようだ。 必要以上に形式ばった喋りかたをするのが、なによりの証拠。 まあ、名乗りを上げるだけ、まだまともだが。 ジャンヌは食事をつづけながら、返事をする。 「 「君の発言、全体だっ…… ジャンヌは、そこでようやく箸を置き、ゆらりとゲインのほう向く。 「こんな話、知ってる?今日の午後、街を歩いていた あなたが、かわりに謝罪してくれるの?仮に謝罪したとして、それで何が解決するの?少女は今も、 ゲインには、ジャンヌのいう少女が誰なのか、察しがついたようだ。 急に、うろたえたような表情を見せる。 馬鹿じゃないが、柔軟ではないな。 「い、いや、その話は聞いているが……おなじ 「控えてどうなるの?……おとなしく、 「そうだっ!」 二人の議論の外で、そんな声が上がる。 見れば、 左目にアザがあり、右腕に包帯を巻いている。 「 ゲイン君、ジャンヌさんのいう通り、 「そ、それは……」 とまどう、ゲイン。 それはそうだろう。 公平に見て、不当な発言をしたのはジャンヌで、それを理性的にいさめようとしたのがゲイン、なのだから。 ほくそ笑む、ジャンヌ。 「私も、その人達に嫌がらせを受けましたっ!」 もう一人、 やがて議論はゲインとシャルル、二人を中心としたものに移行していた。 一部でも蛮行をする者を放置すれば、 取り巻き連も、それに応じた発言を交わしている。 ジャンヌはじっと、その流れを見守っていたが、二つの意見が平行線をたどりはじめたとき、起立して、こう発言した。 「ちょっと待ってよ、みんなっ!……ここにいる人達は、 「無論だ」 「当然さ」 うなずく、二人。 他に異論があるとしても、この場で異論を唱える勇気のある者はいまい。 ゲインもシャルルも、民族は違えど、この国を背負う知的階級予備軍なのだ。 そう、無茶な独善を振りかざすわけもない。 待ってましたとばかり、ジャンヌ。 「だったら、 その言葉に、学食棟が一瞬、静まりかえる。 「そうだっ!」 先に声を上げたのは、ゲインかシャルルか? やがてその声は、学食棟を満たし、学生たちは二人を中心として、悪質な それを確認してから、ジャンヌは横で小さくなっていたトレスに声をかけた。 「トレス……」 びくっとこちらを見る、トレス。 場の流れに、ついて行けないようだ。 ジャンヌはにっこり微笑で、他人には聞こえないよう、ささやいく。 「さっ……夕飯もすんだし、お風呂入りにいこっ!」
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